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2014/2/6
会計記帳というのは,財産の動きを会計のルールに従って帳簿に記録することであるが,その会社の経理担当者が行うことも多い。
では,会計記帳の代行というのは本来,誰が行う業務なのであろうか。
行政書士なのか,税理士なのか,誰でもよいのか。
一般的には会計記帳代行は誰でも行える自由業務と認識されているようであるが,実際は税理士の業務の中で相当の比重を占めているという方もあれば,「事実証明に関する書類の作成」であるから行政書士業務だという見解もある。
なるほどもっともらしいが,直接的な判例は無いので,有権解釈を中心に検討してみたい。
まず税理士であるが,会計記帳代行は税理士業務とされていない(税理士法§2T)。むしろ「税理士業務ではないが,税理士業務に付随して行うことができる」と明記してある(同§2U税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。)。
つまり,税金の申告などの税理士業務に付随する限りで税理士の名称で行ってもよいが,税理士業務ではないというのである。
この点につき,会計記帳が自由業務とされる根拠としてもよく引用されるのが,昭和54年6月1日衆議院大蔵委員会における政府委員による答弁である。
「財務書類の作成とか,会計帳簿の作成とかそれらの代行という会計業務は自由業務です。本来自由業務ですから,税理士もそれを行うことができるということを確認的に明らかにした」というものだ。
日本税理士会連合会編『新税理士法要説』でも
「本来,財務書類の作成や記帳の代行などの会計業務は自由業務であり,この規定もこれらの業務を税理士の独占業務である税理士業務に含めるものではない。このことは,“税理士業務のほか”,“税理士業務に付随して”といった表現からも明らかである。」と説明されている。
一方で,「事実証明に関する書類の作成である」とする見解もある。
平成6年5月26日日本行政書士会連合会会長回答(日行連発第265号)によると,
「財務書類の作成や記帳代行等の会計業務は,税理士の独占業務ではなく,誰でも行える自由業務である。」としながら,
「行政書士が行う場合は,行政書士法第1条第1項(改正前)の事実証明に関する書類の作成に該当するものであり自治省の見解も同様である(自治省行政課矢島孝雄『地方自治』昭和59年9月号)。」とする。
この見解のように,会計記帳代行が,行政書士法第1条の2第1項行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、・・・事実証明に関する書類・・・を作成することを業とする。に定められた「事実証明に関する書類の作成」に該当するならば,それは行政書士業務である以上,行政書士は依頼に応ずる義務(行政書士法§11行政書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない。)や守秘義務(同§12行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。)を負うことになる一方,原則として行政書士でなければ行えないし(同§19T行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。・・・),行政書士でないのに行えば,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる(同§21)。
さてこれらの有権解釈に間違いがないとすると,会計記帳の代行は誰が行っても良く,税理士は税理士業務に付随すれば税理士の名称を用いて行っても良いが,行政書士が行う場合は「事実証明に関する書類の作成」なので行政書士の独占業務になる。これはどういうことか。
ここで参考になるのが,平成6年7月4日日本行政書士会連合会会長回答(日行連発第335号)である。
「行政書士が作成する財務書類の作成は,商法第32条(改正前)(新)商法第19条第2項:商人は、その営業のために使用する財産について、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な商業帳簿(会計帳簿及び貸借対照表をいう。・・・)を作成しなければならない。 に基づく書類(=商業帳簿)の作成であるが,その財務諸表を税務申告に利用することは可能である。だたし,税務申告のための書類作成を業とすることは,行政書士法上問題がある。」という見解である。
つまり,行政書士が作成した財務書類はその結果として税務申告に使っても良いが,始めから税務申告が目的の財務書類は税理士業務に付随するものとして税理士が行うべきである,というのである。
すると,税理士が行う記帳代行は税務申告が目的であり,行政書士が行う記帳代行は利害関係人への財務諸表の開示などの,事実証明が目的である,という違いが見えてくる。
では一般の人が行う記帳代行の目的は何か。税務申告や事実証明が目的では,違反になりかねないということである。
ここで行政書士の独占業務である「事実証明に関する書類作成」の範囲として,有名な平成22年12月20日最高裁判決が参考になる。
これは会計記帳でなく,ある一般業者が作成した家系図が「事実証明に関する書類」に当たるか争いになった事件であるが,判決は
「本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない」から,この家系図は「事実証明に関する書類」に当たらないとした。
これを受けて,日本行政書士会連合会は平成23年1月13日付声明にて,
「観賞用又は記念用の家系図作成は行政書士業務に該当しないが,事実証明文書としての親族関係図や相続関係説明図等の作成は行政書士業務に該当する」との見解を示した。
つまり,会計記帳でいうなら「対外的な関係で意味のある証明文書として利用されることが予定されてい」るならば,行政書士の独占業務になりうるということである。
蓋し,会計記帳というものの目的は,税務申告や事実証明ばかりではない。自らの事業の維持・発展をはかるため,過去の経営活動を反省し,将来のための資料となる内部文書でもある。
一般の人は,経営判断のための内部資料作成を目的として会計記帳を代行することができ,その意味で自由業務なのではないか。
このように,行政書士は利害関係人への財務諸表の開示や行政庁への手続を目的とし,税理士は税務申告を目的とし,一般人は経営判断のための内部資料作成を目的として会計記帳を代行するが,その結果完成した財務書類は,それぞれ事実証明や税務申告や経営判断資料として利用しても差し支えない,という関係が見えてくる。
しかし会計記帳代行は,税理士には「税理士業務に付随して」という前提が明記されているし,守秘義務も「税理士業務」に関して求められるに過ぎず,条文上対象外である(税理士法§38税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後においても、また同様とする。,54)。一般人に刑罰で担保される守秘義務はない。
会計記帳の代行は,安心・安全な行政書士に依頼してみてはいかがだろうか。
当事務所でももちろん対応している。
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